肝臓癌
肝臓の悪性腫瘍は大まかに原発性肝癌(肝細胞癌および胆管細胞癌)と大腸癌の肝転移などに代表される続発性肝癌とに分かれます。原発性肝癌は主として肝炎ウイルスが原因ですが、最近は肥満、糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)によるものが増加傾向です。外科、内科、放射線科医師を交えたカンファレンスを行い、患者さんの状況を考慮した上でガイドラインに沿い、根治治療である肝切除手術を最優先に治療方針を決定しています。
また近年は大腸癌発生頻度の増加と化学療法の発展に伴い、切除可能な続発性肝癌(肝転移)が増加しています。続発性肝癌に対しましても慎重に適応を決定し、手術を積極的に行っています。
2016年度から腹腔鏡下肝切除術を積極的に導入しました。同手術は腹腔鏡による拡大視効果が得られ、開腹手術と比較して出血量が少なく、術後入院期間が短縮されるなど低侵襲な治療といえます。また治療成績も遜色ないとの報告があります。しかし技術的に難しく、安全性が問題となります。肝臓内視鏡外科研究会の主導の元、安全性評価を行う目的で腹腔鏡下肝切除術の症例登録システムが導入されていますが、当院も安全な治療を担保するために登録施設として参加しています。認定基準と手術適応に応じて患者さんに安全、安心していただける手術療法を提案しています。
また、安全性を高めるため高度な画像解析ソフト(下記)を用いて、より安全で確実な手術を行っています。
VINCENTを用いた画像評価
腹腔鏡下肝切除術
膵臓、胆道(胆管、胆嚢、十二指腸乳頭部)癌
また肝臓で合成された胆汁は肝臓内の胆管→総胆管(胆嚢)→乳頭部を経て十二指腸へ排出されますので、胆道は胆汁の通り道と言えます。
膵胆道癌は年間の罹患者数と死亡者数がほぼ同数となる悪性度の高い疾患ですが、年々増加傾向です。唯一の根治治療である外科手術を可能な限り目指していますが、不幸にも初診時に高度局所浸潤や遠隔転移により手術適応がない患者さんが多いことも事実です。さらに高齢化に伴い重篤な基礎疾患を抱える方も多く手術可能かどうか苦慮することもあります。治療におきましては、外科手術の適応をまず検討しますが、十分な精査と評価、Informed consentを踏まえ、患者さんの状況に応じて総合的に判断し、最も適した治療を安全に提供するよう努めています。
膵切除手術の代表格として膵頭十二指腸切除術があります。膵頭部や遠位胆管腫瘍に対する術式で、高侵襲、高リスク手術でもありますが、手術効果により根治や余命延長が期待できます。
膵体部主膵管内に粘液産生腫瘍を認める(主膵管型IPMN)
膵頭部に閉塞性黄疸を伴う腫瘤を認める
胆道に発生する良性疾患の多くは胆石に関連しています。症状を伴う胆嚢内に存在する胆石(胆嚢結石)に対しては、手術により胆嚢を摘出する必要があります。
胆管結石に対しては、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を行い、内視鏡的に結石除去を行っています。胆管結石が嵌頓することで引き起こされる急性胆管炎は時として重篤な敗血症につながることがあり、緊急にERCPを行い胆管ステント留置の必要があります。また状況に応じて膵管ステント留置も行っています。
膵管ステント留置
悪性疾患では、手術前に黄疸を改善させた後に病変の部位によって肝切除や膵頭十二指腸切除など術式を評価する必要があります。また手術適応のない場合においては引き続きステント留置を継続していきます。
また結石の嵌頓による急性胆管炎や胆石膵炎は、高熱や腹痛を伴い、状態によっては緊急ERCPが必要となりますが、その際の迅速な対応も行っています。
胆管癌による高度狭窄に対しメタリックステント留置
総胆管に8㎜ほどの結石を1個認める
内視鏡的乳頭切開(EST)後に、ビリルビン結石を切石
以上のように、当科では良悪性を問わず症例毎に的確な診断を行い、手術、内視鏡的治療を通じて安全かつ確実な治療を行っています。