放射線科(治療)

放射線治療とは

放射線治療は、がんの治療法として外科手術・抗がん剤と並ぶ治療法の一つで、がんに高エネルギー放射線を照射することにより腫瘍細胞などを死滅させてがんを退治する治療法です。照射中に痛みを感じることはありません。しかし、少しずつ悪い腫瘍を破壊していく方法ですので、多くの場合1~2カ月程度かかります。体調にもよりますが、外来での治療も可能です。
また、放射線治療は他の手術や化学療法と比べて『全身への影響が少ない』『臓器の形態・機能を温存する』『通常の保険診療で行える』などのメリットがあります。

放射線治療の流れ

診察
●放射線治療の目的の決定
●放射線治療の方法の決定(照射方向、回数等)
治療計画
●治療計画用CT撮像
●治療計画装置を用いた線量分布作成
検証
●治療計画における線量の検証等
治療
●患者さんのセットアップ(治療の位置合わせ)
●患者さんへの放射線照射の開始
※診察から治療開始まで、数日程度かかることが多いです
※治療開始を急ぐ必要がある際は診察日と同じ日に治療を開始することもあります

 

日々の照射と診察

放射線治療装置の台上で、照射範囲がずれないように毎回同じ体位をとります。照射中、痛みを感じることはありません。通常、一日2Gy(グレイ)前後の照射線量で、毎日(月曜日~金曜日)照射を6週間前後 続けるのが標準的です。放射線治療は、治療回数や期間が治療効果や副作用と密接に関連していますので、途中で中断しないことが大事です。
照射期間中は定期的に診察を行い、治療の続行が可能か、照射範囲の変更が必要かどうかを判断していきます。

寡分割照射

当院では、新型コロナウイルス感染症の流行等も考慮して寡分割照射も行っております。寡分割照射というのは、通常分割照射の1回線量を多くして治療期間の短縮を目指すものです。疾患の種類や照射する部位によってはできないこともあります。

マーカーレスによる照射

体表面光学式トラッキングシステムであるCatalystの最新機種であるCatalyst⁺ HD(C-RAD社)を九州初導入したことにより、マーカーレスでの照射が可能となりました※)。3本のカメラで体表面を可視光によりスキャンすることで、位置合わせを行うことが可能となり、乳房温存術後の放射線治療はもちろん、その他の症例においても、従来のように身体にマークを書き入れることなく治療を行うことができます。そのため、お風呂に入られる際や汗をかいた際にマークが消えてしまわないかといったストレスや、肌着が汚れてしまう等のご負担をおかけすることがありません。
 
120°毎に設置された3本のカメラにより、死角なく観察することが可能です。
  • 体表マーカーあり
  • 体表マーカーなし
以前は、身体にマークを書いて治療しておりました(左)が、現在ではマークを書くことなく(右)治療を行うことができます。
※写真は当院男性スタッフによる再現です。
※一部症例や照射方法によっては従来通り身体にマークを書く場合があります。

左乳房照射時の心臓への線量の低減

左乳房温存術後の放射線治療においては、心臓の一部に照射された線量と治療終了後、数年以降の心血管疾患発症リスクの関連が報告されています1)。
当院では、深吸気息止め(Deep Inspiration Breath Hold : DIBH)照射を行っており、心臓への放射線線量の低減が可能となっています。これは、大きく息を吸った状態で息を止めてもらうことで、乳房と心臓の物理的な距離を離して照射する方法になります。Catalyst⁺ HDで息止めの波形を観察することで、常に同じ量の息の吸い方であることを確認し照射を行っています。
 
  • 深吸気息止め時
  • 自由呼吸時
大きく息を吸って止めた時(左)と従来の自由呼吸時(右)の治療計画の断面像です。大きく息を吸い込むことで乳房と心臓の距離が離れ、照射する範囲内から心臓を避けることができます。
  • Darby SC,Ewertz M,McGale P,et al. : Risk of ischemic hert disease in women after radiotherapy for breast cancer. N Engl J Med. 368(11): 987-998,2013.

脳や肺への定位放射線治療

定位放射線治療とは、がんに対してあらゆる方向から3次元的に放射線を集中させて行う治療方法です。そのため、通常の放射線治療に比べて一度に多くの線量を照射することができ、なおかつ、治療期間も短縮させることができます。放射線を集中させるために、通常よりも高い精度での位置合わせが必要なことから、治療中は頭部または体幹部を動かないようにシェルという型を作成し、固定して照射します。
通常よりも一度に多くの放射線を照射しますが、この度導入したVersa HDではフラットニングフィルタフリー(Flattening Filter Free : FFF )という高線量率での放射線照射が可能であり、さらに、動態原体回転照射(Dynamic Conformal Arc Therapy : DCAT)法という治療機器が回転しながら照射をする方法と組み合わせることにより、通常の放射線治療と変わらない時間で照射をすることも可能となっています※)。
 

肺の定位照射の治療計画画像

  • アキシャル像
  • コロナル像

頭部の定位照射の治療計画画像

  • アキシャル像
  • コロナル像
図の様に、がんに放射線を集中させ、周囲の正常組織への線量を低減させることが可能です。
頭部固定の1例)
図の様に型を作成させてもらい、治療中はその型を用いて固定することで精度の高い位置合わせを行います。
※一部症例によってはDCAT法ではなく、従来の定位照射法となる場合があります。
 

副作用について

・基本的に照射部位に起こります。
・照射部位や線量によって症状や頻度が異なります。
・起こる時期によって急性期有害事象と晩期有害事象に分類されます。
・緩和的放射線治療法では症状緩和・QOL(生活の質)の改善を目的としているため、なるべくつらい有害事象を起こさないよう、心がけています。
・根治的治療よりも線量が低いため、症状は一般的には軽微で臨床的に問題となることは少ないです。
・有害事象が疑われ、対応に苦慮する際は放射線治療医にご連絡ください。

(例)皮膚への影響

緩和的放射線治療について

痛みをはじめとする身体症状の改善や、QOL(生活の質)の向上を目的として行われる放射線治療のことを、「緩和的放射線治療」といいます。今ある症状だけでなく、今後起こりうる症状についての対応も含みます。

※緩和的放射線治療により、緩和が期待できる症状
原発部位による症状・病態
頭痛、けいれん、神経症状
頭頸部 疼痛、出血、嚥下困難、息切れ
疼痛、咳嗽、血痰、閉塞性肺炎、呼吸苦、上大静脈症候群
食道 嚥下困難、嚥下時痛、出血、閉塞
婦人科 疼痛、出血、尿路閉塞、水腎症
泌尿器 疼痛、血尿、尿路閉塞
直腸 疼痛、出血、しぶり腹、直腸閉塞
 
転移部位による症状・病態
頭痛、けいれん、各種神経症状
疼痛、脊髄圧迫による麻痺、病的骨折予防
皮膚・軟部組織 疼痛、出血
眼窩 疼痛、複視、視力低下、失明
脾臓・副腎等 疼痛、早期満腹感
CA CANCER J CLNI 2014;64:296-310 改変


 

治療と仕事・生活の両立

照射時間は1回あたり15~30分程度です。治療回数は患者さんの状態に合わせて、1回から数回(多い場合には20回以上)であり、放射線治療は、一般的に治療中の仕事との両立に適しています。就労・介護などとの両立について、ご相談ください。