整形外科

関節外科

[健康的な生活をより長く、より楽しく]
関節外科チームでは、地域の皆様が股関節、膝関節の痛みに悩まされない、健康的な身体活動を維持するための御手伝いをさせて頂いております。
 

治療の流れについて

まずは運動療法、薬物療法、生活習慣指導などの保存治療が前提となります。しかし、保存療法を継続しても痛みの改善が難しい方、既に軟骨の摩耗などの変性が進行しており、日常生活に支障を来している方には手術療法を御提案します。関節外科チームでは患者さんの年齢、職業、趣味、スポーツ活動といった日常の生活背景を念頭に、関節温存術から人工関節置換術を行っております。
 

股関節の疾患について

股関節は体幹と脚をつなぐ重要な関節で、骨盤側の臼蓋(受け皿)が大腿骨側の骨頭(球)を包み込むような構造をしており、軟骨、関節唇、関節包などの関節運動の安定化に欠かせない組織が存在します。歩行中では体重の約2-4倍の負荷がかかると言われ、これらの構造物が損傷すると、鼠径部(脚の付け根)や臀部に痛みを伴います。

主な股関節の代表的疾患を列挙します。

変形性股関節症

骨盤側の臼蓋(受け皿)、大腿骨側の骨頭(球)の関節のクッションである軟骨が擦れ合い、徐々に擦り減ることで変形が進行し、股関節痛を引き起こす代表的な疾患です。多くは40〜50歳代に発症し、原因が明らかではない一次性と、寛骨臼形成不全などの様々な疾患から発症する二次性があります。最初は立ち上がりや歩き始めに鼠径部(脚の付け根)の痛みを感じますが、進行すると太ももや膝にまで常時痛みを感じるようになり、夜間寝ていても痛みに悩まされること(夜間痛)があります。日常生活では足の爪が切りにくい、靴下が履きにくい、和式トイレや正座が困難など、また痛む方の下肢の長さが短くなり歩きにくさが生じます。保存療法を行っても改善が困難な場合には手術療法を検討します。関節の変性が初期であれば関節を温存する骨切り術、進行している場合には人工股関節置換術の適応となります。

寛骨臼形成不全症(臼蓋形成不全症)

骨盤側の臼蓋(受け皿)が小さいと、大腿骨側の骨頭(球)を覆っている屋根が狭くなり、関節にかかる局所的な負担が大きくなります。これにより軟骨が擦り減って、痛みを伴うようになる疾患です。我が国での変形性股関節症の約80%以上が寛骨臼形成不全から起因すると言われています。保存治療を行っても改善が難しい場合には臼蓋の被覆を大きくする寛骨臼移動術(関節温存)、二次的に変形性股関節症に進行した場合には人工股関節置換術を行います。

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI:femoroacetabular impingement)

骨盤または大腿骨側の骨の形態異常によって、関節を動かす際に両者が衝突し、関節軟骨や滑らかな関節運動に重要な関節唇が損傷し、痛みや変形性股関節症を引き起こす疾患です。MRIや関節内注射によって診断を確定させます。

大腿骨頭壊死症

何らかの理由で大腿骨頭への血流が途絶し、大腿骨頭が壊死に陥った状態です。壊死した場所が荷重に耐えられず圧潰することで疼痛が生じます。ステロイドによる治療やアルコール多飲が関連することが知られており、進行すると二次性の変形性股関節症をきたします。検査は造影剤を使用したMRIによって診断し、病期・病型分類を行うことで保存治療、関節温存術(大腿骨頭回転骨切り術、大腿骨転子間弯曲内反骨切り術)、人工股関節全置換術の適応かを判断します。

大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折

骨の脆弱性によって、わずかな外力、もしくは誘因なく大腿骨頭の関節軟骨の直下に発生する骨折です。高齢の女性に好発し、骨粗鬆症や腎臓の移植後、また若年者でも発生する事が報告されています。圧潰が進行する場合には人工股関節全置換術が必要となります。

手術療法

当院で行っている代表的な手術について御説明します。

関節温存手術

寛骨臼移動術

寛骨臼形成不全症に対して、初期の股関節の変性の方に行っている手術です。骨盤側の臼蓋(受け皿)の周りを球形に骨切りし、骨片を前外側に回転させるように移動させ、大腿骨頭(球)を覆っている屋根を大きくします。これによって股関節にかかる体重による負担が分散され、また関節の安定性が得られる為、疼痛が改善し、変形性股関節症への進行抑制が期待できます。
当院では、患者さんの症例に応じて低侵襲の手術を行っています。骨盤外側の筋肉や腱を切離しないので、筋力の回復が早い事、骨盤を栄養する血管損傷がないので、術後も良好な骨癒合が得られます。また産道を傷つけないので、術後の正常分娩も可能であり、手術の傷は約7cm程度で下着に隠れる範囲で行えるなど、特に若い女性にとってメリットが大きい術式です。

回転骨切り・弯曲内反骨切り術

大腿骨頭壊死症に対して行っている手術です。これは大腿骨頭の血流障害により、骨頭組織の一部が壊死する病気ですが、病変部に体重がかからなければ組織修復が起こると考えられています。その為、壊死した範囲が小さい場合には、骨頭の荷重がかかる場所を移動させる回転骨切り術を行います。これによって患者さん本来の関節を温存することが可能です。一方で病態が進行し、骨頭内の壊死した範囲が大きい場合には人工関節全置換術を行います。
  • 大腿骨転子間弯曲内反骨切り術
  • 大腿骨頭前方回転骨切り術

人工股関節全置換術

主に進行した変形性股関節症や大腿骨頭壊死症、関節リウマチに行っている術式で、国内では年間7万件以上施行されている手術です。変性した骨盤側の臼蓋(受け皿)と大腿骨側の大腿骨頭(球)をインプラントに置換する事で、関節温存術よりも早期に除痛効果が得られ、1-2週間で退院可能です。
当院で行っている手術の特徴について御紹介します。
①前外側方アプローチ(ALS:Antero Lateral Supine Approach):人工股関節全置換術が開発されてから様々な手術の方法が報告されておりますが、当院では前外側方アプローチを導入しております。この方法は股関節周囲の筋肉や腱を切らずに大切な関節包を温存できる為、股関節脱臼のリスクを低減できます。よって手術後の日常生活動作の制限は特にありません。筋肉や腱を温存するため術後の回復が早く、手術翌日より歩行訓練を開始して術後1~2週間で自宅に退院できます。手術前の筋力が保たれている方は更に早い退院も可能で早期の社会復帰、スポーツ復帰が実現できます。また股関節が高度に変性すると下肢が短くなり、違和感を感じられる方が多いです。本術式では仰向けに寝た状態で手術を行えますので、術中に両下肢の長さを確認でき、可能な限り長さを揃えることが可能です。
②両側同時人工股関節全置換術:変形性股関節症は両側同時に発症される方が一定の割合でおられます。御希望があれば一度の手術で両側の人工股関節置換術を施行する事が可能です。手術による身体への負担は片側のみに比べると大きくなりますが、入院、手術、リハビリを一度の手術で完遂できる為、より短期間で治療を進める事が可能です。御希望の際に担当医に御相談ください。
③3DCTによる術前計画:股関節の形状、骨の強度、変性の進行度、立った時の骨盤の姿勢は、皆さん一人一人異なります。その為、手術には患者さんの関節に合ったインプラント、設置する位置・角度を事前に把握する必要があります。従来はX線写真での術前計画を行っておりましたが、当院ではCTを用いた3Dテンプレートを使用しております。これにより患者さんの特徴を3次元で詳細に把握でき、本来の股関節の形状により近づけられるよう術前計画を行う事が可能です。特に変性が進行し、関節及び骨の変形が強い方に安全に手術を進めることができます。

膝関節の疾患について

歩行中に膝関節にかかる負担は、体重の最大7.1倍と言われています。膝関節は大腿(太もも)、脛骨(すね)、膝蓋骨(さら)の3つの骨で構成され、関節内にはクッションの役割となる軟骨、半月板、安定性を保つための前十字靭帯・後十字靭帯が存在します。日常生活を送る上で非常に重要な関節ですが、他の関節に比べて負荷がかかりやすい割に関節を覆っている軟部組織が薄いため、痛みを感じやすく、損傷を来しやすい関節と言われています。

主な膝関節の代表的疾患を列挙します。

変形性膝関節症

膝関節の重要なクッションの役割となる軟骨の長年の擦り減りにより、膝の痛みや、かたさ(拘縮)が生じます。特に我が国では人種、肥満、生活様式、O脚などの変形によって生じる一次性が多く、その他外傷などによって発症する二次性があります。加齢とともに増加し、高齢者の日常生活の質を下げる最も多い原因の一つです。変性が軽度であり、活動性が高い方には関節を温存するための膝周囲骨きり術、変性が高度であれば人工膝関節置換術を行います。

膝骨壊死症

中高年の女性に好発する膝関節の急な激しい痛み(特に夜間の痛み)によって生じます。以前は体重がかかる軟骨下骨への血流障害により発症すると言われておりましたが、近年の研究で骨の脆弱性に伴う軟骨直下の骨折から発症し、これには半月板損傷の関与も報告されています。さらに若い年代の方にはアルコールやステロイドにより、両側に生じる二次性骨壊死症があります。壊死範囲が大きく、日常生活に支障を伴う痛みがあれば手術を行います。こちらも関節の変性の程度によって手術方法が決定します。変性が軽度な方は膝周囲骨きり術、変性が高度であれば人工膝関節置換術を行います。

関節リウマチ

自身の免疫細胞が、自分自身の身体の一部を自分のものではないとして、関節の細胞や組織を攻撃し、慢性的な炎症が起こり、関節の腫れや痛みが生じます。炎症が持続すると関節内の骨や軟骨を破壊していきます。30代以降と比較的若い女性に生じますが、御高齢の方も変形性膝関節症と併発して膝の痛みが悪化することがあります。関節リウマチに準じた薬物治療を行っても関節破壊や変性が進行し、日常生活に支障をきたす場合には人工膝関節全置換術を行います。

半月板損傷

半月板は関節の内側と外側に存在するC型の形状をした関節のクッションで、荷重の分散や関節の安定化に寄与します。深く屈んだ状態で、脛骨(すね)に捻りの運動が加わることで、半月板の損傷・断裂を生じます。突然の疼痛、関節の腫脹、歩行中に自覚される膝が外れた感じや、ひっかかり感、コキッと音が鳴ったりする場合にはこちらの損傷を疑います。若い方は靭帯断裂に合併した激しい外傷、中高年の方は徐々に半月板が変性することで、より軽微な外傷で生じることが多いです。MRIや関節鏡で確定診断となります。関節鏡視下縫合術、O脚、X脚を整える為の骨きり術を行います。

前十字靭帯断裂、後十字靭帯断裂

前十字靭帯、後十字靭帯は膝関節の安定性を担う重要な靭帯です。主にバスケットボールやバレーボール、器械体操でのジャンプからの着地や、急な方向転換、またサッカー、ラグビー、柔道など相手との接触プレーで膝関節に過度の外反(外側に曲がる)ストレスが加わることで生じます。特に前十字靭帯断裂は自己修復に期待できず、不安定な膝のまま日常生活を送ると二次性の変形性膝関節症や、軟骨損傷のリスクになることから手術が必要となります。手術は関節鏡視下で御本人の腱を利用した再建術を行います。

手術療法

当院で行っている代表的な手術を御説明します。

関節温存手術(膝周囲骨切り術)

関節の変形が軽度で、日常生活の活動性が高い方、できるだけ関節を温存したいという方に行っています。関節から離れた位置で、大腿骨(太もも)もしくは脛骨(すね)を部分的にカットし、強固なプレートで骨接合を行う事でO脚やX脚を矯正します。手術翌日より歩行訓練が可能な人工関節置換術に比べると、リハビリに少し時間がかかりますが、最大のメリットは膝関節の良好な動きが保たれ、スポーツなどを含めた活動性の高い生活の維持、獲得が期待できます。

人工膝関節置換術

人工膝関節単顆置換術

膝関節の内側(もしくは外側)など、軟骨が擦り減った表面だけを部分的にインプラントに置換する手術です。置換されない軟骨、膝を支える靭帯は温存できるので、身体への負担が少なく、正常に近い膝関節機能の獲得が可能となる手術です。

人工膝関節全置換術

損傷した膝関節全体の表面をインプラントに置換する手術です。進行した変形性膝関節症、関節リウマチ、骨壊死症などあらゆる疾患に対応でき、またX脚やO脚などの下肢のアライメントを矯正します。除痛効果が高い手術です。また、全例ポータブルナビゲーションを使用し、理想的なアライメントへの矯正に努めています。

関節鏡視下手術

膝に約1cmの切開を2箇所加え、関節内に関節鏡を挿入してモニターを確認しながら手術を行います。

半月板縫合術

半月板が損傷した場合に行います。半月板はできるだけ温存することが推奨されておりますが、縫合を行っても治癒が見込めない場合は、半月板損傷部を一部切除して、下肢のアライメントを整える脛骨(すね)骨きり術を行います。

前十字靭帯、後十字靭帯断裂に対する再建術

靭帯再建には御自身の脛骨(すね)の内側に付着しているハムストリング筋腱を移植用の腱として使用します。関節鏡視下で解剖学的な位置に骨孔を作成し、これに移植腱を通して、ボタン等の医療用の固定具で固定します。移植腱の採取用に3-4cm程の切開が必要になります。特に若い方のスポーツ外傷では半月板の合併損傷が多いので、必要に応じて半月板縫合術を追加で行います。

脊椎外科

当院の特徴

末期腎不全に対して血液透析を行っている方や糖尿病、心疾患を患っている方など、高度の内科的合併症のある患者さんのご紹介が多いです。このような患者さんでは手術におけるリスクが高くなりますので、内科や麻酔科の先生方のしっかりとしたサポートを受けることで、安全性の高い医療を実践しております。

脊椎・脊髄疾患に対する検査

患者さんの主訴および身体所見から疾患を予想し、まずは外来でレントゲン、CT、MRIなどで脊椎・脊髄の現状を把握します。これらの結果から、確定診断のためにさらなる精査が必要と評価した際には神経根ブロックや神経伝導速度検査などの検査を追加します。さらに精査が必要な時には脊髄造影検査などを行うための検査入院を計画し、さらに責任病巣を絞り込みます。
脊椎・脊髄疾患によって四肢の痛みやしびれ、麻痺が生じますが、これらの症状は脊椎・脊髄疾患以外の疾患でも生じ得ます。よって脊椎・脊髄に対して精査を行うも大きな異常がなかった場合には脊椎・脊髄疾患以外の疾患(後述します)の可能性を考えて、脊椎・脊髄以外の検査を追加したり、神経内科などといった整形外科以外の科が得意とする精査を追加したりしています。正しい治療を行うためにも、正しい診断をつけるよう日々気を付けて診療にあたっております。

症状:しばらく歩くと下肢の痛み、しびれが目立ってきて、長く歩けない

上記の症状(間欠跛行)が目立つ際には腰部脊柱管狭窄症などを鑑別に挙げます。MRIにて脊髄が通るトンネルである脊柱管が狭くなっていることでこの脊髄が圧迫されていることを確認します(下図1)。
投薬などを行うも症状が強く残る場合には手術を考えます。脊髄の圧迫の原因となっている脊椎の一部分を切除したり、肥厚した黄色靭帯を切除したりすることによって脊髄の圧迫を解除します(下図2)。これによって脊髄の自力回復を促し、現在の下肢症状の改善を狙います。症例によって2cmほどの小さな皮切で行える内視鏡手術を選択するか、通常通り3~4cm程の皮切を設けてしっかりと患部を同定して行う手術を選択するかを考えております。術後2週ほどで退院される患者さんが多いですが、さらにリハビリが必要な場合には近隣の病院と連携し、さらにじっくりリハビリが受けられる環境を用意しております。
この間欠跛行は腰部脊柱管狭窄症ではなくて、下肢の動脈の流れが悪くなって生じることがあります(下肢閉塞性動脈硬化症)。この疾患を発見した際には循環器内科にご紹介して精査加療を進めます。

症状:箸が使いづらい、文字が書きづらい、持っていた物を落とす、歩行時のふらつきが目立つ

上記の症状(巧緻運動障害)が目立つ際には頚椎症性脊髄症などを鑑別に挙げます。MRIにて頚椎にて脊柱管の狭窄が生じて頚髄が圧迫されていることを確認します(下図3)。この頚髄が脊柱管内に存在する後縦靭帯が骨化・肥厚して頚髄が圧迫されている場合[後縦靭帯骨化症(下図4)]には難病申請を行い、手術の際には医療費の助成が受け取れるようにしております。
症状がまだ四肢の痛みやしびれぐらいの状態ならば鎮痛剤等の投薬で経過を見ます。しかし四肢の痛みやしびれが強い場合や、いよいよ四肢の動きがぎこちなくなってきた場合には手術を検討します。脊柱管を広げることで頚髄の圧迫を解除し[椎弓形成術(下図5)]、頚髄の自力回復を促し、現在の症状の改善を狙います。
手の症状は目立たずに歩行障害だけが目立つ際には頚髄ではなく胸髄の圧迫を考え[胸髄症(下図6)]、胸椎の精査を追加します。一方手の症状だけが目立つ際には脊椎・脊髄疾患ではなく手根管症候群肘部管症候群といった末梢神経の障害を鑑別に挙げます(前者は手関節で、後者は肘関節で神経が圧迫されている疾患です)。一方整形外科疾患ではなく糖尿病や、パーキンソン病といった神経内科疾患でもこれらの症状を認めることもありますので、脊椎・脊髄の検査で大きな異常を認めなかった場合には各内科にご紹介し、これらに対する精査加療を開始します。

症状:背中の痛み

スポーツや事故などで大きな怪我を受けて背中の痛みが目立つ際には椎体骨折などを鑑別に挙げます。一方年配の方で尻もちなどの軽い怪我で背中の痛みが目立つ際には骨粗鬆症性悪性腫瘍の転移による椎体骨折などを鑑別に挙げます。
まずCT、MRIにて骨折の程度を評価するともに、この骨折による骨片で脊髄が圧迫されているかどうかを確認します。どれだけ脊髄が圧迫されているか、および実際に脊髄が圧迫されてどれだけ下肢に痛みやしびれ、麻痺が生じているかなどから、コルセットなどの保存加療を選択するか、手術を選択するかを決断します。
手術の際には骨セメントを用いた椎体形成術、スクリューを用いた固定術、脊髄の圧迫を解除する除圧術、これらを組み合わせて行います(下図7)。近年この椎体形成術および固定術は小さな皮切で経皮的に行うことが可能ですので、可能な範囲で少しでも低侵襲な手術を目指しております。
今回の骨折が骨粗鬆症によるものならば、今後さらに骨折が生じる可能性を減らすためにも、骨粗鬆症自体への治療が重要となります。骨密度を計測するだけでなく、骨が形成される能力が低下しているのか、それとも骨が破壊される能力が亢進しているのかを調べて、どの骨粗鬆症治療薬を開始するのが適切かを判断します。当院で骨粗鬆症治療薬を開始した後、近隣のかかりつけの病院・クリニックに引き継ぐことで、近医で治療が受けられるようにしています。

症状:腰の痛み

年齢、スポーツ歴、職業などから、腰椎椎間板ヘルニアすべり症分離症変性後側弯症などを鑑別に挙げ、精査加療を進めます。
MRIにて腰椎椎間板ヘルニアを認めた際(下図8)、多くは自然軽快が得られることが多いので、まずは鎮痛剤といった保存加療を行います。自然軽快が得られない時、および初診の時点でとても痛みやしびれ、麻痺が目立つ時には手術を検討します。症例によって小さな皮切で行える内視鏡手術を選択するか、通常通りの3~4cm程の皮切を設けての手術を選択するかを考えております。
すべり症や分離症を認めた場合はコルセットなどで外固定を行い、脊椎を保護します。腰や下肢の痛みが目立つ際には手術を検討します。スクリューやロッドといった金具を用いて脊椎を補強する固定術(下図9)、および神経の圧迫を解除する除圧術を組み合わせた手術を行います。可能な範囲で、小さな皮切で行える低侵襲手術を少しでも組み合わせることを目指しております

最後に

当科としてはまずしっかりと診察、精査を行って診断をつけ、保存加療がいいか手術がいいかを判断し、患者さんにあった治療法を選択します。手術を行う際、患者さんに重度の内科的合併症がある場合には、少しでも周術期合併症のリスクを下げるためにも当院内科や麻酔科としっかりと連携して手術に臨んでおります。そして近隣の先生方とも連携を取ることで、患者さん方が近医で投薬やリハビリを受けやすいようにもしております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

上肢・手

腱鞘炎(ばね指)

ばね指は、指を曲げた状態から伸ばすときにひっかかるようなバネ現象や痛みが走る症状が出ます。放置すると指が完全に伸びない、曲がらないなどの症状も出ます。
指を曲げる時には腱という組織が指の骨を引っ張りますが、この腱が動く際に腱鞘というトンネルの下を滑走しますが、何らかの原因でこの腱鞘に炎症が起こり、スムースに腱が通れなくなった状態が腱鞘炎です。腱鞘炎がひどくなると腱がひっかかりを起こし、指の曲げ伸ばしの際にばねのように跳ね上がることからばね指とも言われます。
治療には薬物療法やステロイドの注射等の保存療法がありますが、これらの治療で効果がない場合や日常生活に支障をきたす場合は手術加療をお勧めします。曲げ伸ばしができない状態を放置すると関節拘縮をきたして関節が固くなってしましますので、そうなる前に早期に治療を開始することが重要です。
当院では基本的に日帰り手術を行っております。局所麻酔科下に原因となっている腱鞘の上を1㎝程度切開し、腱鞘を切り開き、腱のひっかかりを解除します。3針程度縫合して手術を終了します。手術時間は10分程度で、術後1週間から10日ほどで抜糸を行います。

手根管症候群

手根管は、手首の手のひらの部位で骨と靭帯に囲まれたトンネルで、この中を1本の正中神経と指を動かす9本の腱が走行しています。この手根管のなかで、何らかの原因により正中神経が圧迫されると、手根管症候群が発生します。
原因としては、手首の骨折後、腫瘍、滑膜炎、妊娠、糖尿病、透析アミロイドーシス、その他原因のはっきりしないものがありますが、中高年の女性に多いと言われています。
症状は親指から中指と薬指の親指側にしびれや痛みが生じます。朝、目を覚ましたときに症状が強く、場合によってはしびれや痛みで夜間睡眠中に目が覚めることもあります。長期にわたって症状が継続すると、親指のつけね(母指球)が痩せてきて細かいものをつまんだり、ボタンを留めることが困難になってきます。
検査としては、手のひらをたたくと指先に痛みやしびれがひびく徴候や、手首の曲げ伸ばしで症状が増強するテストなどがありますが、神経伝導速度検査も重要で、当院でも必ず行っております。
症状が軽症の場合は、装具や薬物療法、ステロイド注射等の保存療法を行いますが、保存療法で改善しない場合や母指球の萎縮が明らかな場合は手術加療をおすすめします。
当院ではばね指と同様に初回手術は基本的に日帰り手術を行っております。局所麻酔下に手のひらに2㎝程度切開し、原因となっている靭帯を切ることによって神経の圧迫を取り除きます。
5針程度縫合して手術を終了します。手術時間は15分程度で、術後1週間から10日ほどで抜糸を行います。また、血液透析患者様は、術後5年程度で再発することがあり再手術を要することがあります。この場合は、全身麻酔下での手術を行っており、2泊程度の入院が必要です。
術後、早期に疼痛は軽減しますが、しびれ感は改善するのにある程度の時間を要します。
もともとの神経のダメージが強い場合は完全に症状が改善しないこともあります。

上記のような症状でお困りの患者様は当院にご相談ください。また、近隣の開業医の先生方もご紹介いただけると幸いです。
 

当院の特徴

持病があり、手術を受けられるか不安な方へ

心臓、脳、肺、腎臓の疾患、糖尿病など、御自身の持病により手術に不安を抱えられている方が多いのが現状です。当院では術前に血液検査、肺機能検査、心電図検査、胸部X線写真を行っており、既往症がある方、麻酔・手術のリスクが高い方には専門の外来に御案内し、手術前の評価、手術前・後の注意点について御評価頂いております。当院では全診療科に各専門医が在籍しておりますので、御希望の方がおられましたら遠慮なく担当医師にお伝えください。

術中の麻酔、術後の痛みに対して

日帰り以外での手術はほぼ全例当院麻酔科へ依頼しております。手術部位や患者さんの合併症に応じて、常勤の麻酔科医師に御協力頂き、脊椎麻酔、神経ブロック注射を行っております。特に痛みを伴う手術については厳重な術後の管理を行い、鎮痛により早期の離床、リハビリテーションを目指します。

痛みの原因を整形外科の各専門医が評価致します

関節外科、脊椎外科専門医が在籍しております。特に肩、腕、手指などの上肢や、股関節、太腿やふくらはぎなどの下肢の痛みや痺れは関節由来なのか、脊椎、もしくは神経痛由来なのか評価が難しい場合があります。当院では各専門医が痛みや痺れを評価し、その原因と治療法について御提案致します。

実績

2023年度 当院整形外科の代表的な手術と症例数(2023.4.1-2024.3.31)
手術症例   989例
     
脊椎   122例
  頸椎 27
  胸椎 11
  腰椎 84
     
股関節・膝関節   367例
  人工関節置換術 134
  骨切り術
  関節鏡
     
  大腿骨近位部骨折 221
  (術式)  
  人工骨頭置換術 132
  骨接合術 80
  人工関節置換術
     
上肢   291例
     
下肢(股膝以外)   82例
     
その他   127例